潜在性高プロラクチン血症について
潜在性高プロラクチン血症:LHRH・TRH負荷試験とは
私たちも犬や猫も哺乳類です。哺乳類のお約束事項としては、授乳中には次の妊娠をしないことが必要です。そうでないと、両者同時では野生の場合、栄養分の不足が起こりえるからです。
哺乳類は一般的に授乳中のメスにオスを引き合わせても発情しません。しかし人類は、大脳の発達に伴い分娩直後であっても性交渉は可能な種族となっています。そのため、何らかの方法で授乳中には妊娠しづらくさせなければなりませんでした。脳下垂体から出るホルモンの一種であるプロラクチンに、乳汁分泌ホルモンの役割と排卵抑制ホルモンの二つの役割を持たせました。授乳中に月経が来ないのはこの理由です。
一方、脳下垂体から分泌されるプロラクチンは、脳下垂体の上位の指令所である視床下部からの命令で分泌されています。視床下部からTRHホルモンが出ると脳下垂体からプロラクチンを分泌するように指示されています。このTRHが分泌されると小さな子供から老人まで性別問わずにプロラクチンを分泌させます。
この変動性を確認するためにLHRH・TRH負荷試験というのを行います。最初に採血をして通常時のプロラクチンを測定して、TRHを投与して15分後、30分後のプロラクチンの数値を確認して、急上昇している場合には、潜在性高プロラクチン血症と診断できます。
一方、視床下部から分泌されるTRHは二つの役割を持っています。一つは先に述べたプロラクチンの分泌をさせることですが、まったく別の役割で、脳下垂体からTSHを分泌させる効果があります。どちらかというとTSHを分泌する役割の方が本業です。このTSHは甲状腺から甲状腺ホルモンを分泌させる指示を出しているホルモンです。病気ではなく甲状腺ホルモンが分泌される状況とは「頑張る」時です。試験が近いとか、受験とか、誰かとけんかしちゃったとか、何かを悩んでいるとか、引っ越してきてどんなカーテンつけようかとか電車に乗り遅れたとか、本当に些細なことでも甲状腺ホルモンは微調整されつつ分泌されています。脳から「試験が近いので頑張らないといけない」という指令が来た場合、視床下部からTRHが分泌され、そのTRHの指令の下、脳下垂体からTSHが分泌され、TSHの指令の下、甲状腺から甲状腺ホルモンが分泌され頑張れるわけです。
ところがTRHは前述の通り、プロラクチンを分泌する指令書になっています。そのため潜在性高プロラクチン血症があると、頑張るたびに授乳中の状態になってしまい、排卵が抑制されます。つまり月経が来なくなります。いわゆる、ストレスがあると月経が遅れたり、月経が来なくなる方はこの潜在性高プロラクチン血症を当院では強く疑います。こういう方の特徴には「頑張って子供を作るぞ!」というと月経不順となり「もうあきらめた」というときに、妊娠するというパターンがこれに相当します。
当院では、開院して14年間で約1800名以上の方にこの検査・診断を行い、月経周期の正常化、排卵周期の復活、挙児希望の方にとっては妊娠に至っている方が多くいらっしゃいます。この検査をする前に判断する方法の一つには基礎体温をつけると「ガタガタ」「ギザギザ」という形で乱高下している方は潜在性高プロラクチン血症であることが多いです。また、半年~1年月経が来ない方も治療することで改善しています。甲状腺疾患も絡んでいることも少なくなく、その精査も同時に行っています。また、プロラクチンはあまりに高値になると流産の原因にもなりかねませんので、その結果の数値次第では、妊娠8週までプロラクチンを抑える目的でカバサール(1週間に1回1錠服用する)という薬剤を服用している方もいます。ちなみに、潜在性高プロラクチン血症は妊娠出産して授乳を行った後、改善する方が多いです。ご来院の際には、さらに詳しく説明できます。
PCO(多嚢胞性卵巣)・RUF(存続卵胞)とは
不妊症の外来では、排卵日を診断するために超音波検査を実施して、卵巣内に卵胞が発育していくのを見ます。人類の場合、卵胞が20mmに達するとその卵胞が破れてその中にある卵子が放出され、これを排卵といいます。(その時競争していたほかの卵胞は、排卵を契機にしぼんでいきます)。
排卵がうまく行かないとき、卵胞の発育が順調に進まず、大きくなれずに未熟なまま時間だけが経過して、結局排卵せず月経(この場合、いわゆる無排卵月経)になります。そのため、未熟なままの卵胞は積み残されてしまいます。その次の月にまた卵胞の発育が新たに行われ、先月の卵胞のそばに今月の卵胞が作られますが、また卵胞発育が止まってしまうと、その卵胞もまた積み残されます。これを繰り返していった結果、卵巣内に小さな未熟卵胞が多数残る状態、つまり卵巣に小さなツブツブ画像(ネックレスサイン)が見られるものがPCOといわれます。
卵胞はうまく育っていったけど、排卵である卵胞の破裂がストップしてしまって、どんどん大きくなるだけになったもの(直径10cmを超えてしまうものもあります)がRUF(remained un-ruptured follicle:存続卵胞)といわれます。 もちろん非常に頻度は低いのですが、PCOやRUFが原因で排卵障害を起こすことがあります。ほとんどは、排卵障害があった結果、PCOやRUFになっていることがほとんどです。
たとえて言うと火災報知機のようなもので、火災報知機のサイレンやランプに相当するのがPCOとRUFです。火災報知機のサイレンやランプがついたがためにどこかで出火するのではなく、どこかで出火した結果、つまり排卵障害を起こす要因があった結果、PCOやRUFになっているのがほとんどです。そして、排卵障害の多くが潜在性高プロラクチン血症であることが多いです。
潜在性高プロラクチン血症の排卵障害と卵巣そのものの排卵障害との治療方法の違いとは
卵巣の機能が足りないために排卵障害となっているものには、クロミッドなどのいわゆる排卵誘発剤を使用しますが、潜在性高プロラクチン血症の治療には、ドーパミン作働薬であるカバサールを服用します。
月経周期を車の運転で例えてみましょう。月経周期が45日だったとします。これを車の運転で例えれば目的地まで45分かかるということになり、そのとき、アクセルを踏み込んで(排卵誘発剤を使うという意味)、28分(28日周期にする)になるようにする方法もありますが、潜在性高プロラクチン血症はストレスのたびにサイドブレーキを引いたり戻したりして車が急加速急減速を繰り返す(基礎体温がガタガタのこと)状態です。その時、アクセルを踏み込むでしょうか?いいえ、まずはサイドブレーキをストレスのたびにいじるのをやめさせる(つまり、プロラクチンを抑える)のが先で、その後、サイドブレーキをいじってないのにまだ車が遅い(月経周期が遅れること)時は、アクセルを踏み込む(クロミッドを服用する)のがよいと考えています。