子宮内膜過形成(endometrial hyperplasia)はそれほどよくみうける病気ではありません。でも、産婦人科のクリニックで説明の際に耳にされることもあるかと思います。
子宮内膜は卵巣から出ている女性ホルモンのうちエストロジェン(卵胞ホルモン)の影響を受けて分厚くなっていき受精卵が子宮の内腔に着床に必要で「種を撒いた時の花壇の土」のような役目をします。そのため排卵日のころは超音波検査でみてみると子宮内膜の厚みは前後合わせて10mm前後あります。妊娠されると内膜の厚みは20mm以上になります。この所見は子宮内膜過形成という「病名」ではなく子宮内膜が生理的に厚くなっている(あくまでも)「状態」をさします。一方、月経の最中は計測できないほど薄くなります(月経で内膜が剥がれおちるため)。また低用量ピルの服用をすると非常に薄くなり、排卵誘発剤のクロミフェンで副作用が出たときもすごく薄くなってしまうことがあります。つまり、時期によって内膜の厚みは厚かったり薄かったりするのです。ところが、とある医療施設でその月経周期を考慮せず「厚い・厚い」と診断して「あなたは子宮内膜過形成です。低用量ピルを飲みましょう。そうしないと子宮体癌になる可能性が高くなる」と言われ心配になって当院においでになる方をよくみうけます。ほとんどの方が月経時に子宮内膜を再検査しますとまったく厚くなく異常はありませんでした。子宮体癌検査は当然必要な検査で行うことはいいのですが、1回の超音波検査のみで即座に子宮内膜過形成、さらにはその中でも特に子宮体癌になりうる異形子宮内膜増殖症(atypical endometrial hyperplasia)とその内容をごっちゃにしていかにももう子宮体癌間近のような診断は検診を受ける方に不安を与え、さらには低用量ピルの乱用にも結び付くのでちょっと悲しく思っています。
超音波検査で子宮内膜の病変を検索することは非常に有用ですし、それに基づき子宮体癌検査をさらに行うことも非常に良いことだと思っています。しかし、少なくとも正確な診断があっての話かと思っています。子宮内膜過形成といわれて「むむむ?」とおもっている方は再考もありかなと思います。
2019.10.04