この10年ほど、地域誌に毎月載せていたコラムです。内容的に少し古い記事もあります。
2014年7月 不妊症の第4番目の因子
不妊症の原因を説明する際に数年前までは3つを挙げていました。その3つとは「排卵してますか?」・「精子は元気ですか?」・「卵管は通ってますか?」です。でも、近頃は4番目のはなしをもっぱらお聞きすることが増えました。その4番目とは・・・「夫婦生活が普通にできますか?」ということです。私が医師になったばかりの30数年前頃、夫婦生活のタイミングの指導の際に「排卵日の前は禁欲しておいてくださいね」と説明したものです。そうでないと連日そして1日に数回も夫婦生活をしている方もいらっしゃったため精液が希釈された状態になる事があったからです。
現在は逆にタイミング法の指導をすると夫婦生活は1回のみで済ませたいという方が増えました。また、いわゆる「中折れ状態」となり射精に至らず終わるケースも増えています。特に「中折れ」の方が多くなり、そのことがきっかけになって夫側が自信を失い、今度は勃起不全になり、性交渉そのものもままならなくなった方もいらっしゃいます。先生に相談する際、この話は切り出しにくいとは思いますが、その点については当院では必ず最初にお聞きしていますが、自分から話すようにしないといけないクリニックだった場合は、がんばって話してください。
30~40年前には「夫婦生活をしないことが普通!という方」はすごく少なかったです。そういえば花粉症なんかもその頃そんなにいなかったです。社会全体に何かもっと根深い原因があるのかな?と考えている今日この頃です。
2014年6月 ミレーナについて
ミレーナとはIUS(intrauterine systemの頭文字です)という、避妊用の子宮内に装着するいわゆるリングです。
今までよく言われた避妊用のリング(IUD)は、挿入することによって物理的に妊娠しにくくすることがほとんど(一部銅線などが封入されたものもある)で、避妊の効果は低用量ピルには到底及びません。一方、低用量ピルは避妊効果が抜群でさらに月経量の減弱から月経痛にも効果があり、月経前の心身の変動、つまり、月経前症候群の緩和、ニキビの出現の抑制なども効果があり色々な意味で使いやすいものでした。しかし、低用量ピルには血栓症のリスクが常につきまとってしまっています。実際に亡くなられた方もいらっしゃるため厳重に管理していても、気持の上では心配される方も多いのではないでしょうか?
ミレーナは避妊用リングの軸部分に黄体ホルモン「のみ」を持続放出するペレットを仕込んであるため、一旦装着すると5年間の避妊の効果があります。さらに黄体ホルモン「のみ」の補充をされているため血栓症のリスクがありません。極端に言えば、血栓症の既往のある方でも装着可能です。一寸困る点は装着後半年前後までの不正性器出血がありますが、逆に、その半年以降の4年間から4年半の間はほとんど無月経になります。つまり、月経困難症や排卵痛、月経過多症などは全く起こらなくなることと子宮内膜症は5年間かけて治療したのと同等の効果を得られます。
近頃の低用量ピルで血栓症について不安に思われている方々にとっては福音です。今はまだ自費ですが適応症があるのならば今年の10月くらいから保険適応になって非常にコストパフォーマンスの高い治療法になると考えています。
かかりつけの先生に相談されるといいでしょう。
2014年5月 子宮頸癌の予防接種
公費で補助される中学生と高1の女子についてではなく大人を対象とした話をします。
子宮頸癌の予防接種はHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐことを目的としています。HPVには色々な型があってそれぞれに特徴があります。一般的に癌を起こすものをハイリスク群と呼んでいます。代表的な予防接種のガーダシルを例にとって説明しますと、16型、18型、6型、11型を防ぐとされています。一方、ハイリスク群は13種類あって、そのうち、自然消滅(自然に治ってしまうという意味)を見込めるものと自然消滅しにくいものとに分けられます。ハイリスク群は自然消滅しにくい16、18、31、33、35、45、52、58型と自然消滅が見込める39、51、56、59、68型の合計13種類です。ただ、消滅してくれるまでは「悪さ」をしますので消滅しやすい型でも癌化させる事があります。
ここからが今回の本題です。正式に表明されているものではないのですが、ガーダシルには正式に効果のある先ほどの4つの型以外にも、実は予防接種をすることによって弱いながらも31、33、35、39、45、51、52、56、58、59型に対しての抗体を作ることがわかっています。そのため、既にHPVの感染を受けてしまって子宮頚部細胞異形成があったり、高度異形成やすでに癌化して円錐切除等を受けている方に対しても予防接種によって抗体産生がしっかりされることによってHPVの成育を抑えることが可能かもしれないとの報告があります。実際には円錐切除後に上記の型の範囲であった方は予防接種をして再発頻度が落ちたとの報告もあります。現在、さらに研究されていますので、そのような報告には眼を光らせていてください。もう私には関係ない(もうHPV感染してしまっているので・・・)と思っている方も十分接種対象になり効果を見込める可能性があります。
公費の予防接種は今回何もコメントしません。上記の事に関して興味があれば医療施設で相談されるといいでしょう。
2014年4月 インフルエンザのお薬
未だにインフルエンザに感染する方がいらっしゃいます。今年は流行が長引いている上に当院でもA型インフルエンザとB型インフルエンザの両方にかかって2回インフルエンザになった妊婦さんもいらっしゃいました。これに追加で以前言われた「新型インフルエンザ」まで含めると3回感染した方もいらっしゃるそうです。今年のインフルエンザはタミフルが効きにくくてリレンザでないと改善しない方もいらっしゃいました。この度、タミフルもリレンザも効果の無いインフルエンザ対しての特効薬として「アビガン錠(ファビピラビル製剤)」が平成26年3月24日に厚生労働省で承認されました。
しかし、この薬はインフルエンザに対して使用するのは今までの薬の効果がないことが大前提で、安易には投与されないと思います。インフルエンザに対しては非常に効果的なようですが、この薬は重大な問題を抱えています。この薬の副作用のため動物実験において妊娠初期に胎児死亡・胎児奇形が確認されていて妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。また、さらにコメントがついていて妊娠の可能性のある場合は妊娠検査を行ってからでないとだめな点、避妊も必ず実施するように指導する必要があるとのことです(ここまでうるさく言われる薬は珍しいです)。また、精液中にこの薬は移行するため、きわめて有効な避妊方法を選択しないと、妊娠した際、男性から「精子」+「この薬」のセットがくることになります(不妊症で治療中の方は要注意です)。また、妊娠中にこの薬を飲んでいる男性との性交渉は禁忌です。
よほど大雑把に薬を投与する先生で無い限り、妊娠のことに関して「口がすっぱくなるほど」言われてからこの薬が処方されるはずです。ただ怖いのはネットなどで海外から個人の自己判断で薬を購入したりする方もいるので、その際は厳重に注意すべきだと考えます。
最初から「奇型を起こします」といわれて承認された薬は久々でしたので今回述べさせていただきました(ちなみにタミフルやリレンザによる奇型の報告は聞いたことがありません)。
2014年1月 「低用量ピルの副作用について心配されている女性へ」の見解
平成25年12月27日付けで日本産科婦人科学会から見解が出ていたので今回はこれについて以下にその概略を書きます。低用量ピルの副作用である静脈血栓症による死亡例が報道されたのを受けての見解だそうです。
低用量ピルはご存知のとおり避妊の目的だけではなく月経困難症や子宮内膜症なのに対しても有効な治療薬です。しかし服用している女性において静脈血栓症による死亡例が出たため、その実態については厚生労働省研究班で調査中とのことです。静脈血栓症発症の頻度は低用量ピルを服用していない女性で年間10000人に1~5人に対し服用していると3~9人です。妊娠中は5~20人、産後12週間までだと40~65人です。よって、分娩後などと比較しても頻度は低いです。静脈血栓症を発症して致命的な結果となるのは100人に1人で低用量ピルの死亡率は10万人に1人となります。低用量ピルを服用している最中にACHES(腹痛・胸痛・頭痛・視野異常/舌のもつれなど・下肢の強い痛みなど)があれば医療施設に受診するようにして下さい。低用量ピルは女性のQOL向上に極めて有効ですが、一旦静脈血栓症を発症した場合、重篤化することもあるので必要に応じて受診するようにして下さい。・・・とのことです。
私の見解としては、ただ確率で説明されても納得できない部分もあります。妊娠中や産後はある意味女性にとっては一大事な時でいろんな意味で覚悟を決めている状況と思います(例えば妊娠してない時お腹を切る話は納得できなくても帝王切開の時は納得する方が圧倒的に多い)。一方低用量ピルを服用している時は平時であってあくまでも「QOLの向上の目的」での服用している状況なので一概にその頻度計算だけで納得できるのかな?と思います。どのように防げるのか、どのように管理するとさらに安全なのか、そういう方向性が出ないと気がかります。「必要」な方のみが服用するというのが、どの薬にもいえることで、処方した以上は当院では当然管理下におくことにしています。でも低用量ピルは非常に良い薬ですので・・・。
2013年12月 Yesterday ♪~~
ポールマッカートニーのコンサートに行ってきました。20数年前にも東京ドームでのポールのコンサートに行ったのですがその当時と変らずポール自身もスゴく元気で、またすばらしいコンサートでした。30数曲ほとんど休みなく水も取らずに歌いきっていました。
なんと! 71歳だそうです。
その時、ふと違うことを考えました。「ぼくも、まだやれるじゃん」と・・・。
お産をとるのはおめでたいので大好きで今でも時々、分娩介助をしているときの夢を見ます。コンサート翌日、早速、分娩をとるクリニックに再構築することを計画するぞと奮起しました。ところが、その日の検診の時、たまたまなのでしょうが、二人の妊婦様から分娩場所を変えたいといわれまして、その理由をお聞きしたところ、分娩予定にしていたところの先生が倒れて急に閉院になったとのことだったのです。興味本位でお聞きすると、私と同い年くらいの先生だったそうです。私も日赤の病院でほとんど自宅にも帰らず、分娩と手術に明け暮れていたとき、このままだと死んじゃうかも、、、と思って、分娩を止めたことを思い出して、結局、分娩を扱う病院構想は1日でしぼんでしまいました。
今でも「先生のところでお産できるなら、帰省しないでここで産む!」というリップサービスをしてくださる方がいますが、今の診療も、夜中でも救急対応しているので、それが一人で行うベストの診療だと思っています。
分娩を扱っている先生は本当にお身体にご自愛ください。
だからポールマッカートニーはスーパースターなのですね!
2013年11月 40歳代後半からと女子小中学生とは似てる
いったい何のことかというと・・・月経の傾向です。
よく40歳代後半から50歳代にかけての女性の方が、月経不順になって「もう更年期ですか?」ということでおいでになります。更年期障害は女性ホルモンの卵胞ホルモン(エストラジオール)が減少することによって起こるもので、時期としては閉経もしくは閉経間近をさします。したがって、しっかり月経があった場合は更年期障害ではありません。
今回のテーマは月経不順のことですが、色々な病気(高プロラクチン血症とか甲状腺疾患とか)によって起こるものとは別に「年齢に伴っての変化」の月経不順です。
大体、40歳代後半からの「3年弱」が小中学生の「1年」くらいに相当します。どういうことかというと計算しやすいように仮に初潮が12歳だったとし閉経が52歳だったとすると、12歳から1年たった13歳当時の月経不順と52歳から3年引いた49歳当時の月経不順は似ています。同様に初潮から2年目の14歳頃の月経パターンと閉経から6年引いた46歳頃の月経パターンは似ています。ですので、100歳くらいのおばあちゃまが「赤ちゃん帰り」するのと似ていて、40歳代後半からの月経周期の変動は年齢的変化なので仕方がありません。ただ、調整は自由に効きますが。
40歳代後半からの月経不順が起こってきたら「3年に1歳ずつ」若返っていっていると思うといいかな?と思っています。ご自身がセーラー服を着たり、赤いランドセルを背負っていた頃、経血の扱いにまだ不慣れで「ママ~!大変!どうしよう!」なんて言ってた頃の若い自分にもどっていっていると考えるのもいいのかな?と思います。
2013年9月 帰省分娩
「地元へ帰ろう~♪」って「あまちゃん」ネタですが・・・分娩場所を決める上で横浜でお産をするか、実家の地元でお産をするか悩みどころです。初めてのお産でも上にお子さんがいても悩みます。今回は帰省分娩に焦点を合わせて考えてみます。
メリットとしては・・・親親戚が産前・産後の人的バックアップを取ってくれる。出産後、子育ての経験者たちが「無料」で指導・支援してくれる(場合によっては口うるさいときもありますが)。気兼ねなく、産後の休養を取れる。産前産後の諸費用をちょっと出してもらえるかもしれない期待感がある。子供たちがじじ・ばばに会えるのでうれしがる。友達に会える。面倒な夫の世話をしばらくしなくてすむ。・・・などなどです。
ディメリットとしては・・・夫がいなくて寂しい、心細い。立会い分娩などがしにくい。分娩前、産後に移動をしないといけない。妊娠中の経緯が分娩先にきちんと伝わっているかが不安。妊娠中に出産場所でないところでの検診中、何かあったら不安。上の子の行事(運動会とか )に参加できなくなるかもしれない。・・・などなどです。
悩んじゃいますよね、実際・・・。当院では帰省分娩の方も分娩先への情報提供やこちらで何かあった際も開院以来8年たちますが365日24時間対応で不安にさせることなく対応できています。したがって、ディメリット部分は相当減らせられます。でも帰省分娩が絶対良いというわけではないので誤解しないでね。
ただ横浜地域の人件費は地方(東京は除く)と比べて高いです。それにともなって分娩費用も結構差があります。どこの分娩施設も子供を預かってくれたりなどの色々なサービスもありますがほとんどが有料になります。分娩費用の総額を聞いて「じぇじぇじぇ」とならないようにしましょう。
なお、当院は看護師募集中です。希望の方は当院まで連絡ください!
2013年8月 ジェネリック製剤について
最近、手持ちの健康保険証にも「ジェネリック製剤を出してあげてください」と書いてあるものを見受けます。この間も患者様から「ジェネリックでお願いします」といわれました。しかし、当院の処方箋は原則ジェネリック製剤ではなく先発品(最初に開発された薬)の名前で処方します。そうすると・・・「ジェネリックでお願いしたのに」・・・といわれますが、これは大きな間違いなのです。実は院外処方箋をみていただくとわかるのですが、左下の方の備考欄に『保健医署名「変更不可」欄に「レ」または「×」を記載した場合は、署名又は記名・押印すること。』というところがあります。ジェネリック製剤はマスコミなどで啓蒙されていることもある意味正しいのですが、処方する上で一定の決まり事があります。
先発品を仮に「先」とします。それのジェネリック製剤が数種類あってそれぞれを「A」、「B」、「C」、「D」とします。それぞれ1錠の値段に差があることが多く、ここで値段の高い方からの順番が「先」>「A」>「B」>「C」>「D」としましょう。そこでジェネリック製剤希望を伝えたところ、そこの先生が「C」という薬剤を処方した場合、ジェネリックのお約束は「同じ値段のものかあるいはそれより安い値段のものに変更は可能」という条件があります。つまり「C」を処方されると「C」と「D」は処方可能です。もし、そこの調剤薬局に「C」と「D」がなく、「B」というジェネリックしかなかった場合は処方した医師に確認して許可が出れば変更可能になっています。しかし、「先」で処方箋を出されて先に述べた「変更不可」にマークがされていなければ「先」も「A」、「B」、「C」、「D」のすべてを処方可能ということになります。もし痛み止めなどですぐ処方してもらわないと困るようなものを先ほどのように「C」を指定されてしまって、そこに在庫が無く、さらに医院が既に閉まっている時間帯だと次の日まで我慢するか「C」の在庫のある薬局をさがす羽目になります。
一番ジェネリック製剤を推奨している医療施設は先発品の名前で処方して、変更不可にしていないところだと思ってください。もちろん、アレルギーなどの理由で変更不可にチェックする場合もありますが・・・。
当院では看護師の募集中です(産休で長期欠員が出ました)。可能である方は下記病院代表電話まで御連絡ください。
2013年7月 子宮頸癌検査結果の表記について
以前もここで書きましたが、未だに古い日母方式の記述のみで頚癌検査の結果を述べている施設を見受けます。混乱を起こすのでもう一度お知らせしたいと思います。2001年に米国のベセスダという地方都市で世界の子宮癌検診の結果表記を決定しました。4年前から日本では日母方式、つまり、クラス分類でⅠ、Ⅱ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、Ⅴであらわされていたものを変更するに至りました(横浜市の癌検診の黄色い紙にサインするとき見てみてください。下段に新方式とかかれてNILMとか書いてあります)。ベセスダの略語ではNILM、ASC-US、ASC-H,LSIL,HSIL、SCCと腺癌系に分けられています。
ベセスダ表記の一番よい点は、以前の日母方式ではクラスⅠだと1年に1回、Ⅲだと3回、だから・・Ⅱは2回というわかりやすくそして安易な理由から言っていましたが、実はクラスⅡには異常な「ASC-USのクラスⅡ」と全く問題ない「NILMのクラスⅡ」がありそれをしっかり区別しているところです。つまりNILMであればクラスⅡも異常がないものとして心配する必要がないだけでなく検査の周期も密にする必要性がありません。さらに、ASC-USの場合は(今話題になっている子宮頸癌の予防接種)HPVの予防接種と密接な関係にあり、HPVの感染があると頚癌になりやすくなるため、その検査を必要とするグレードに相当します。ただ、それ以上のグレードはそれぞれ管理・治療の対象なので医療施設で説明されると思います。
つまり一番出会うことが多い「NILMのクラスⅡ」と「ASC-USのクラスⅡ」は全く別物なので、もし、それを混乱するような説明だった場合は、さらに説明を求めるといいと思います。ただ、人間ドックで子宮癌検診の結果を「B判定」とか「評価C」とか、何を言いたいのかわからない表記をしているものありますが、これはいたずらに結果に対しての評価を混乱させるので、もしそのようなものであったら、ベセスダで何に相当しているのかをお聞きになったほうがいいです。